この度、化学工学会環境部会部会長を拝命いたしました信州大学の高橋伸英です。2002年に環境部会が創設されてから12代目の部会長となります。これから2年間環境部会長を務めます。どうぞよろしくお願いいたします。
30年以上前から地球温暖化問題は研究者の間では注目されていましたが、今や地球温暖化に伴う気候変動は、我々の生活を脅かす現実の問題として、一般の方々も認識するに至っています。二酸化炭素を主とする温室効果ガスの大気中濃度の増加が地球温暖化の原因と言われており、あたかも大気環境の問題のように見えますが、本質はエネルギー・資源問題であり、我々の生活スタイルとも密接に関係しています。温室効果ガスの正味排出量をゼロにするカーボンニュートラルの達成は、人類が総力を挙げて取り組むべき課題であり、環境部会としても特に取り上げていきます。
一方で、我々が抱えている環境問題は気候変動に限りません。2009年に提唱されたプラネタリー・バウンダリーの概念では,地球環境の安定を維持する9つのカテゴリーを特定し,それぞれに安全な限界値を定めています。その9つのカテゴリーは,@気候変動、A大気エアロゾル負荷、B成層圏オゾン層破壊、C海洋酸性化、D淡水利用、E土地利用変化、F生物圏の健全性、G窒素・リンの生化学的循環、H新規化学物質です。2023年の評価ではA、B、Cを除く6つのカテゴリーですでに限界を超えているとされています。人類を含む生物にとって生存可能な地球環境を維持するためには、大気、水、土壌環境と生物との関係を理解し、必要な対策を講じていく必要があります。
また、このようなグローバルな環境問題だけでなく、我々の身の回りには生態系を脅かすローカルな環境問題が多々あります。PFAS、PFOSなどの比較的新しい環境汚染問題や、我が国特有の放射能汚染問題もあります。このような身近な環境問題には迅速な対応が求められ、そのための対策技術の早急な開発が必要です。
さらには、廃棄物による環境汚染を防ぎ、新たな原材料調達による自然環境への負荷を低減するためには、リサイクルを推進し、資源効率性を高めることが重要です。直線型経済(リニアエコノミー)から循環型経済(サーキュラーエコノミー)へと転換することは、経済発展と環境保全の両立にとって必須です。
このように、我々の環境を保全していくためには、広範かつ多種多様な分野における要素技術の開発と、それらを組み合わせたシステム工学的なアプローチが必要です。そこでは、化学工学の知識、技術が必要とされています。さらに、自然科学や社会科学と連携した学際的な取り組みも必要です。化学工学会環境部会は、ローカルからグローバルまで、工学的分野を中心としつつも、あらゆる環境問題に取り組む方々が情報提供、情報交換、ディスカッションできる開かれた場を提供したいと考えております。
環境部会では4つの分科会(地球環境分科会,水環境プロセス分科会,リサイクル分科会、環境システム分科会)を柱とし活動を行っています。主な活動として、秋季大会、年会におけるシンポジウムの開催、その他講演会、国際会議の開催、化学工学年鑑の執筆、論文誌特集号の企画・編集、メーリングリストによる情報発信を行っています。近年では、他部会との連携を強化し、部会横断シンポジウムを数多く開催しております。今後はさらに他学会、他分野との交流を深め、様々な視点から環境問題の解決を考える場を提供したいと考えております。多くの方々にご参加いただき、環境を良くするために一緒に取り組んでいけますことを願っております。会場でお会いしましょう!
2025年4月
信州大学 教授 高橋伸英
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